②摂食障害と私(自傷編)
(①からの続きです)
塾が終わる。
私は今日も居残りだ。
国語と英語は何の問題もなくむしろトップクラスなのに、数学だけが毎回不合格だ。
頭が真っ白になる。とりあえずy=xとだけ書くが、何もわかっていないのでそこで固まる。
心臓がドキンドキンとなる。先生が近づいてくるがわかりませんと言うのが恥ずかしい。
でもわからないことを絶対に先生はわかっている。
また最終まで残りだ。全身に込められた力は「もう帰っていいぞ」と言われても抜けない。
なんと言う時間のロスだろう。帰ったらすぐに宿題の山に取り掛からなければ。
この頃は人前ではいつも太った体が硬直している気がしていた。
そんなこんなしているうちに帰宅すればお腹が減る。
それもそうだ、塾が始まる前に10分程度で流し込んだご飯じゃ満足するはずがない。
だけど中学生の部屋に食べ物があるわけがない。
コンビニで買ったチョコレートやパンをこっそり食べる日々が続いた。
イライラすればするほど、学校でのいじめが加速するほど、その悔しさを勉強に注ぎ込み、エネルギーを得るために、そしてストレス解消のために夜中の隠れ食いは続いた。
当然体重は増える。
いじめのネタは増え、もはや吊るし上げに近いくらいの侮辱を大勢の前で受けた。
加害者は全員男子だった。
ちなみにこの頃から私の男性不信は始まる。
体型、および体重を気にした私は母から出されるご飯を隠れて捨てるようになる。
母が見ていない隙をついて器のご飯をビニール袋に全て流し入れ、口を縛ってこっそり塾バッグに入れ、自転車に乗って塾までの途中にある森に寄り、ぶん投げて捨てるのだ。
そんなことを繰り返すが結局は中学生の浅知恵だ。
帰宅すると空腹に根負けし、家に着いてからキッチンの食パンに手を出すのだった。
気づくと二枚、三枚…と焼かずに生でそのまま食べてしまう。
半分以上食べて我に帰る。ヤバい、全部食べたら明日怒られる。
次に冷蔵庫を開ける。この残りのおかず、明日のお母さんのお昼になるんだろうな。
ちょっと食べてもバレないかな…。冷えたままのおかずを冷蔵庫の前で立ちっぱなしでつまむ。だめだ、これ以上食べたらバレる。
チョコか何かないかな、とにかく甘いもの…ないか。何か、何かないかな。
ゴソゴソ棚を開けたり冷凍庫や冷蔵庫を何回も開けたりして食べ物がないか探し続けてる。
ビーッという電気の音が深夜のシンとしたキッチンでやたら響いている気がして、誰か家族が起きてこないかビクビクする。
そしてこれから取り掛からなければいけない課題の山と、自分の体型に改めて絶望する。
まだまだ食べたい欲は満足しない。深夜一時か、とりあえず勉強しなくちゃ。足りないけど諦めるしかない。間に合わない。
机に向かうがイライラする。なんだろう、全然集中できない。だめだ。
ふとカッターを手にして手首に当ててみる。
心臓がドキドキすると同時に手首の血管がドクン、ドクンと動いている。
そこに水平に刃先を当て、しばらく深呼吸する。
頭の中で男子の声がする。
「おい身障、お前だよデブ。死ねよ。なんで生きてんの?イライラするんだよテメエみたいなデブが視界に入ると。悪いんだけどさ、早く死んでくれない?俺たちのために死ねよ、頼むからさ。」
重なるように母の声が頭でぐるぐるする。
「まともじゃないわよ、あんた。ろくでもない神経してるわよ。お母さんが悪いんでしょ。すみませんね、母親失格で。なにその目は。どうせ私が悪いわよ。」
「あんただけは失敗しないから。何か失敗してごらんなさい、そんなのはうちの子じゃないからね。」
いろんな声が頭で混ざり合ってウワッ!となる。うるさいうるさいうるさい!!
その瞬間、力を込めて手首に水平に押し当てた当てたカッターを、一気に勢いよく引く。
脳内が白くなって、パッと楽になる。ふわふわした感じ、ぼーっとする、いろんなぼやーんとした感覚が全身に駆け巡って脱力する。
腕があったかいなと思って見ると、2ミリくらいにパカっと開いた赤い傷口から勢いよく血が噴き出ている。床にボタボタと落ちて大きな血だまりが出来ていく。結構な高さから血の雫が落ちるので血しぶきが机や床に飛び散っている。
あー…、またやっちゃったなぁ…。でもなんか、なんか…とにかくほっとする。
自傷はこんな感じの流れで行われる。
この一瞬のほっとした感覚を忘れられなくてこの行為は毎晩の儀式と化していく感じだった。
まだまだ続きまーす。